一般社団法人 日本ペインリハビリテーション学会
理事長 松原 貴子
慢性疼痛は今や、単なる症状ではなく、独立した「疾患(disease)」として国際的に定義されています。WHOやIASPの潮流を受け、その治療戦略の中心は、運動療法や教育、自己管理支援といった非薬物療法へと大きくシフトしました。しかし、私たち臨床家が直面しているのは、「ガイドラインに則った標準的介入を行っても、改善が停滞する症例が確実に存在する」という現実です。なぜ治療反応性に顕著な個人差が生じるのか。この問いに対する明確な視点をもつことこそが、現在の疼痛リハビリテーションに求められています。本学会は、この臨床上の最重要課題に対し、科学的知見と臨床的視点を統合した、学会としての見解(Position)をここに公表いたします。
「一律の介入」から「個別化した精密な介入」へ
本ポジションペーパーは、治療効果を減弱させる「阻害因子(inhibitory factors)」を、(1)疼痛特性(疼痛機序)、(2)末梢・中枢感作、(3)情動・認知要因、(4)ライフスタイル要因、(5)治療関連要因(薬剤副作用等)の5領域に体系化しました。これらは単独で存在するのではなく、相互に影響し合う「多層ネットワーク」を形成しています。本提言では、これらの阻害因子を評価・把握し、修正可能な因子を基軸とした「精密/個別化疼痛リハビリテーション(precision pain rehabilitation)」の実装を呼びかけています。
臨床の羅針盤として
本書は、厳密な推奨度を定めるだけのガイドラインではありません。臨床家が患者と向き合ったとき、「なぜこの痛みは動かないのか」を共に考え、多職種で共通言語をもつための羅針盤です。「痛みを抱えながらも、再び動き、参加し、生活を取り戻す」、このリハビリテーションの本質的な目標を達成するために、本提言が皆様の日々の臨床実践を支え、次世代の研究を拓く一助となることを切に願っております。
詳細なエビデンスおよび臨床的含意については、以下の本文PDFをぜひご一読ください。
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